呼吸器専門医A 無床クリニックの厳しさに直面する

さてK総合病院は60歳が定年です。ちょっと早い印象もあります。
その直前にとある大学の分院から呼吸器内科の責任者で来て欲しいというオファーがあり、異動しましたが、あまりに職場の風土・文化が私にそぐわなかったので速攻で退職し、神奈川県にある無床の私立クリニックに活動の場所を移しました。このことは私の黒歴史です。
このクリニックは一般内科のほか22の専門診療科を持ち、1日の受診者数は850人程度の規模を有する結構規模の大きなクリニックです。今まで勤務した病院の外来部門では自分が外来で見ていた患者さんの病状が悪化した時には、そのまま入院して頂き診療できるという、言ってみれば「逃げ道」がありました。無床クリニックではそれができず、同じ系列で同じ名前を冠した病院が近くにはありますが、連携がないため、「自分が診ている患者さんを入院が必要な状態にまで絶対に悪化させない」ことが自分の責務と位置づけて日々診療するという覚悟が必要であることに気づかされました。これは医者になってから初めての経験ですが、逆にクリニックを開業して自分でやっていく際の心構えと、病気の管理を厳しく行うということを学ぶことができ、とてもよい経験をさせてもらったと思っています。
ほかに2つ、このクリニックにいてよかったと思うことがあります。一つ目はこのクリニックが位置しているのが、京浜工業地帯のど真ん中で昔から大気汚染による喘息が多い場所で、現在は大気汚染も改善されていますが、それでも公害認定の患者さんをはじめとして今まで診たことがないような重症喘息の患者さんを多く診させて頂き、この年になって喘息という病気を改めて勉強しなおし、理解が格段に進んだと実感できたことです。これは空気がよい南房総のK総合病院ではできない経験でした。二つ目はこのクリニックに発熱外来が設置されていたことです。私もコロナに感染するかも知れないという怖さを感じながら毎週診療に入りましたが、ここのデータを用いてリアルワールドの新型コロナワクチンの効果についての論文を執筆することができ、それが海外の権威ある雑誌(Human Vaccine and Immunotherapeutics)に掲載されたことです。これについてはまたいつか詳しく書きますね。
(2023年3月30日に記載)