また茨城へ行ってきました~今回は建築ウォッチの旅です

テレビで「見に行くべき駅舎」という番組で、JR日立駅が映っていて、以前から見てみたいと思っていたので、娘が常陸大宮の病院勤務ということもあり、ゴールデンウィークの休日を利用して茨城に行ってきました。建築設計の専門家である息子を誘ったところ、行くとのことで、家族全員5月3日にJR日立駅に集合しました。

駅舎は平屋で壁面が総ガラス張りで中が明るい作りです。駅舎は複数の線路とプラットホームを跨ぐために構造上の強度が問題になります。日立駅の設計監修はあの妹島和世氏です。建築業界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞し、国内外の多くの著名な建築物の設計を手がけています。日本国内でぱっと思い浮かぶのは「金沢21世紀美術館」ですね。

21世紀美術館も大部分が平屋で、ファサードはガラス張り

やはり平屋が中心でファサードは総ガラス張りです。日立駅は2012年にグッドデザイン賞を、2014年には鉄道関連では唯一の国際デザインコンペティション「ブルネル賞」の優秀賞を受賞するなど、これまでに11 の賞を受賞しました。2020(令和2)年1月27 日の「NIKKEI STYLE」(日本経済新聞社)に掲載された「デザインに見惚れるモダン駅舎10 選」で2位に選ばれたとのことです。妹島氏は日立市出身で、その関係もあってか茨城県内の建物の設計に数多く携わっています。先ほど構造上の強度に触れましたが、この日立駅のような開口部分が大きい建築では構造強度を高めるためにブレース(すじかい)を入れるのが一般的な手段です。息子によると妹島氏はもともと見える部分にブレースを入れるのはあまり好まなかったようですが、最近はブレースが見える建築が増えてきたとのことでした。この日立駅でも見えるブレースが用いられていますが、開口部分に比べて視界を遮らない大きさで、眺望と明るさが確保されていました。

海に面した高台にあるため総ガラス張りの駅舎や自由通路から海が見渡せ、人が多く集まっていました。この駅に付属して「シーバーズカフェ」があります。

ここは本で見て一度行ってみたいとずっと思っていました。ランチの待ち時間は1時間半程度でした。私にしてはよく待った方だと思いますが、ランチ食べてきました。メニューは特別なものはありませんが、オーシャンビューのカウンターからの眺めがやはりごちそうということですね。

シーバーズカフェのカウンターで海をバックに この店のマスコットになっています

午後は日立駅から歩いて30分程度の神峰神社に足を伸ばしました。途中日立セメントの工場の横を通りました。子供の頃、工場の絵を描くことが好きで、この日立セメント工場の写真を見ながら、それを絵にしたことを思い出しました。

もう50年以上も前のことです。こうして本物を見ることができて感激しました。「工場萌え」のはしりのようなものですね。神峰神社は1428年の創建の歴史の古い神社です。ご祭神はイザナミイザナミ、クマノクスヒの3柱で、イザナミイザナミの夫婦の神様を祀っているというということで「円満」の御利益とされています。日本人はイザナミイザナミを祀る神社が数多くあり、そのいずれもが「円満」の御利益を謳っています。出産で亡くなったイザナミが忘れられず、黄泉の国へはるばる訪ねていくイザナギの話は、人間臭くて好感が持てますが、その後の結末を知ってしまうと複雑な気分になります。ここではこれ以上書くのは憚られますので、興味がある方は検索してみてください。

翌日は水戸でレンタカーを借りて竜神大吊橋へ行く予定にしていました。時間に余裕がありそうなので他にどこへ行こうかと尋ねたところ息子から茨城県天心記念五浦美術館という提案がありました。まず常陸大宮で娘をピックアップして龍神大吊橋へ向かいました。

ゴールでウィークとあって吊り橋に1番近い無料駐車場は空き待ちのクルマの長蛇の列でしたが、そこから400mほどの2番目に近い無料駐車場は少しの待ち時間で入れました。龍神大吊橋は竜神峡にかかる全長446m、主塔間は375mあり、歩行者専用としては「日本最大級」の長さの吊橋です。


昨年行った三島スカイウォークは主塔間が400mでしたので三島スカイウォークより少しだけ短いのですが、三島スカイウォークは下からの高さが70mで下が地面でさらに木がある分高さを感じませんでしたが、龍神大吊橋は下がダム湖龍神湖で、湖面からの高さが100mあり、湖面まで見えるのでまさに足がすくむ高さでした。

橋から龍神ダムと龍神湖を見下ろしたところ

吊り橋の両側には竜神峡をさし渡したロープに鯉のぼりが張られていましたが、マジ半端なく怖く、とても見ている余裕はありませんでした。抱えたウーちゃんとスマホを落とさないように、まっすぐ前のアンカレイジを見つめて渡りました。この巨大な橋を吊っているアンカレイジはさすがに巨大で、

シンボルである竜の絵が描かれていました。主塔は竜をモチーフにした形です。建築をやっている息子は職業柄ここでも主塔をはじめとして構造物の意匠への興味から景色ではなく橋そのものの写真を撮りまくっていました。
竜神大吊橋から五浦まではさらに1時間半くらいの距離です。ここは茨城県の最北の北茨城市にあり、すぐの県境をこえると福島県です。ついに茨城の最北まで来ました。五浦は岡倉天心東京美術学校(現、東京芸大)の校長を排斥され、天心とともに同校を辞職した作家を中心に結成した日本美術院が移転した絵画研究所があった地です。

岡倉天心

テレビ東京「なんでも鑑定団」を見ていると、横山大観や下村観山、菱田春草などの巨匠の作という絵画がしばしば出てきて、真作贋作様々ですが、決まって五浦の天心邸で画作を行っている巨匠達の写真が出てきます。

日本画壇の巨匠達が製作に励んだ部屋

この天心邸や六角堂がある地域は風光明媚ですが行ってみると人里ななれた地で、随分寂しい場所です。言葉を返せば、瞑想や創作には好適であったかも知れませんが。思えばここは日本画ファンの聖地の一つですね。

私は日本画には詳しくありませんが、彼らは当時の日本画壇のあり方にアンチテーゼを示した革命児であることは知っています。当時の日本画は輪郭線をはっきり書くのが通常で、輪郭線を書かない大観らの作風は「朦朧体」と非難されたそうです。なんとなく同時期のフランスにおける「印象派」という名称と通じるものがあります。印象派クロード・モネらのはっきりしない画風の嚆矢「印象 日の出」に対する批判から始まった名称です。まさに「我流しか勝たん!」って実感です。

パリ マルモッタン美術館で見た「印象 日の出」

それにしても以前にパリのマルモッタン美術館で「印象 日の出」を見たときには少し離れた椅子に座って、ボーッと10分ぐらい見ていましたが、その間に絵の前を横切る人が1人もいませんでした。ヨーロッパの美術館あるあるですが、モネファンの自分にとって至福の時間でした。

ここ五浦に立つ茨城県天心記念五浦美術館はアプローチに水盆があり、それを取り囲むような回廊と倉のような形の展示棟が並んでいました。外壁の色も土壁をイメージした様な印象です。設計は東京大学の副学長を務められた内藤廣氏です。
ちなみに私の母校がある旭川市JR北海道旭川駅内藤廣氏の設計です。2011の作で、私が学生の頃にはこんなかっこいい駅舎はありませんでしたが。

JR北海道 旭川駅

ちょっと足を伸ばすと、いろいろ素晴らしい建築を見ることができ、楽しい旅になりました。
(2023年5月6日に記載しました)