AIと医療~Web問診、AI問診、AI画像診断に思う

チャットGPTが話題になっていますが、医療の世界でもAIの利用がいろいろと試みられています。画像診断と問診でもAIが利用されるようになってきました。

例えば胸のレントゲン写真で肺がんを疑うような丸い影(これを結節影といいます)が、AIを用いることで見落としが減るのでしょうか。現在日本人の死因の第1位が肺がんであることはご存知だと思います。部位別で見ると男性の第1位、女性の第2位が肺がんです。ちなみに女性の第1位は大腸がんです。肺がん検診は多くの自治体で行われているのは、肺がんを早期に見つけることが目的です。


AIを併用した放射線科の専門医とAIを併用しない放射線科専門医で肺がんを疑わせる結節影の見つける精度を比較した研究があります。
2020年7月から2021年12月の間に検診センターで胸部レントゲン撮影を受けた10,476人の参加者が登録され、AI群と非AI群に無作為に割りつけられ13 ~ 36 年の経験を持つ3 人の放射線科医のうち 1 人が、AI の 結果を参照しながらX 線写真を読影。 結節影が実際にあるかどうかはCT スキャンで確認したというもので、AI群では非AI群と比較して肺結節影の検出率が2.4倍向上したことが示されました。結節影は肺がんとは限らないのですが、悪性の結節影の検出率も、AI群の方が高率でした。(Ju Gang Namほか.Radiology Vol. 307, No. 2: Published Online:Feb 7 2023. https://doi.org/10.1148/radiol.221894
この論文では結節影だけに限っていて「ある、なし」の判定での評価です。現在の肺のレントゲンの診断でのAIの立ち位置としてはAIが単独で診断するのではなくレントゲンを見る医師(読影医)にセカンドオピニオンとしてAIが解析結果を示すというもので「AIによる支援」というものです。
一方で胸部レントゲンではがんを疑う結節影だけでなく、肺炎や肺結核肺気腫間質性肺炎気胸などいろいろ異常な影を診断する必要があります。AIによっては陰影が「ある、なし」だけでなく質的な診断もできる様になってきました。私のクリニックも富士フィルムの画像診断システム(PACS)に胸部X線画像病変検出ソフトウエアである「CXR-AID」を導入することになっており、結節・腫瘤、浸潤影(肺炎などで見られる広がりのある陰影)、気胸(肺の表面に穴があいて、肺と胸壁の間に空気が漏れて肺が潰れた状態)の3種類の病変が検出可能とされています。

富士フィルム「CXR-AID」のカタログより引用
ベイフロントクリニック南船橋で導入します

実際のデモでは、パッと見てわかる結節影から、わかりにくい結節影までいろいろありました。私自身は約40年間呼吸器の診療を専門にやって毎日胸部レントゲン画像を読んできましたが、それでも悩むケースは時々ありますので、日々見ていない医師ではさらに悩むことが多いと予想されます。自治体で行う肺がん検診は一般の(専門でない)クリニックが主役ですので、正常か異常かの判断に迷う場合には見落としを防ぐために「要精密検査」の判定が付けられてしまいます。二次検診でこれら「要精密検査」の判定の患者さんが日々受診されますが、どこを異常と判定したのかわからない場合が非常に多く、しかし「要精密検査」の場合にはCTを実施し、自治体へ結果を報告する必要があり、「CTで異常なし」の報告を行っている毎日です。一次検診は自治体の公費でまかなわれますが、二次検診は保険診療ですので患者さんの負担も生じますし、社会資源も利用します。これら画像診断へのAI導入を各国で推進しようとしているのは、社会資源の利用の抑制につなげたいということが前提になっているのは間違いないですね。

さて続いてAI問診に関して触れます。日本国内からの研究報告があります。2020年に報告された、AI問診を活用することで患者の待ち時間が短縮されるかどうかを検証した研究です。
2017年4月から2020年4月を対象として、日本の地域病院の一般内科外来を予約なしで受診した患者さんを対象とし2019年4月のAI問診が導入された前後で待ち時間を比較したものです。対象となった患者さんは21,615 件でAI 問診導入後の待ち時間中央値は74.4分、導入前 は74.3分で差はありませんでした。 またAI問診導入後の診察時間の中央値は6.0分で、導入前の5.7 分よりわずかですが有意に長くなりました。「有意」の意味については以前の統計についてのブログで解説しましたのでご覧になってください(2023年5月28日)。この研究でのAIによる自動問診システムが多くの医療機関で導入されている業界大手のものですが、予約なしで一般内科外来を受診する患者さんの待ち時間は短縮されず、導入後は若干の診察時間の増加、つまり患者さんが診察室で診察する医師と対面している時間が0.3分=18秒ほど長くなったという結果でした。(Yukinori Haradaら. JMIR Med Inform. 2020 Aug; 8(8): e21056)現在はそれから3年以上が経過しているので、AI問診は改良されている可能性があります。この研究では待ち時間や診察室にいる時間を評価項目にしていますが、AI問診に寄せられる期待としては、このほかに専門外の病気など不得意分野での問診での聞き落としや見落としの減少、ゴールとしての正しい診断へ結びつけるという質的な改善が想定されます。外来を受診した患者さんの主訴(受診動機)をもとにしての、それからの深掘りの問診をAIが行うことは確かに多くの枝分かれした問診から病気の絞り込みにつながる重要なプロセスです。受診前にそれをwebで行って、受診時にはすでに病気の診断が付いているという状況にはまだなっていないようです。日常診療で私たちはそれを行っていますが、例えば紙の問診票に書かれていないことを聴き出すことや、ふと漏らした患者さんの何気ない言葉が診断の糸口になることは少なくなく、AIが対面での問診に取って代わるのはまだかなり先になりそうな印象です。

実際にAI問診ではなくweb問診を導入しているクリニックも増えていますが、導入した先輩からはweb問診をあまりに作り込んで問診項目が多すぎると嫌われるとも伺っています。私自身はワープロのタイピング入力が苦手で電子カルテのテキスト入力が遅いということもあり、web問診の導入を予定しています。予約時あるいは待合室で患者様が問診に入力をしていただくと、それが電子カルテにテキストとして転記されているweb問診システムはまさに端末の画面ではなく患者さんと向き合う時間を長くするために有用と考えます。そこから深掘りの問診をして行くことができますよね。
AIを診療現場に導入することで患者さんと向き合う時間をより多く取ることにつながり、また画像診断の精度の向上することで患者さんの満足度アップにもつながると期待しています。