Web講演会で講演しました

2023年6月30日にGSK Asthma Web Seminar で最新の喘息治療updateー ICS/LABAから一歩進んだトリプル治療 ーというタイトルで講演を行いました。今回はバイオ製剤のお話ではなく吸入ステロイド(ICS)+長時間作用性β2刺激薬(LABA)+長時間作用性ムスカリン受容体拮抗薬(LAMA)の合剤による気管支喘息治療のお話です。

以前のブログでも気管支喘息は気管支に起きた慢性の炎症であるという話をしました。炎症のために気管支が過敏になって刺激に対して咳が出たり、気管支が狭くなったり(これを気道攣縮といいます)します。気管支が狭くなるとそこを空気が通るときにゼーゼーヒューヒュー音がします。この音を喘鳴(ぜんめい)と言います。この気道攣縮がおさまると喘鳴は聞こえなくなります。つまり喘息は気管支が狭くなったり広がったりする可逆的な症状を特徴とする病気です。一方で気管支は長く炎症が続くと気管支が狭い状態のまま広がらない状況になってしまい可逆的な病気になってしまいます。この非可逆的な状態になるといつも喘鳴が聞こえる様になってしまいます。喘息の治療はこのような非可逆的なzと様態にならないようにすることと、可逆的な気道攣縮を予防するために炎症を抑える吸入ステロイド(ICS)が治療の中心です。また喘息症状を和らげるために気管支を広げる気管支拡張薬も一緒に使用します。長時間効果が続く気管支拡張薬には交感神経刺激薬(LABA;ラバと読みます)と副交感神経遮断薬(LAMA;ラマと読みます)がありますが、ICSとLABAが一緒になっている合剤(ICS/LABA)で治療を始めるのが一般的です。大分前に書きましたが、喘息診療の実践的なガイドラインであるPGAM(ピーガム)ではICS/LABAで治療を始めて、効果がある場合に喘息と診断するといった治療的診断を推奨しています。

というのは気管支喘息は極めてバリエーションが多くで診断基準が未だにないためです。喘息の発作は夜間に起きやすく、症状がある時(発作時)と無症状の時(安定期)があるように症状が変動します。そして夜間から早朝にかけて症状が出やすいことが知られています。咳は反射ですので意識的に我慢することができません。夜間は自律神経は交感神経よりも副交感神経が優勢になることは以前から知られていましたが、咳反射も副交感神経が関係していることがわかっていますので、喘息治療にも副交感神経遮断薬が積極的に用いられる様になってきました。2020年からLAMAがICS/LABAと合わさっているトリプル製剤(ICS/LABA/LAMA)が喘息治療にも適応となったために、このトリプル製剤をどのような場面で使うのがよいのかと言うことを講演では話しました。気道分泌(痰)も副交感神経が関係しているので痰の多い喘息患者様にもLAMAの効果が期待されています。講演ではトリプル製剤の治療効果に関しての大規模臨床試験であるCAPTAINトライアルの結果を紹介しましたが、PGAMで提唱されている中等量のICSを含むLABAとの合剤で喘息症状を抑えられていない患者さんではLAMAとの合剤へ変更すると呼吸機能、喘息症状、喘息発作回数すべてがよくなったことが示されていました。
 

今日の喘息診療では治療に関連する背景(トリータブルトレイツ)を考えて必要な患者さんに必要な薬を届けるというのが基本ポリシーですので、中用量ICS/LABAでコントロールが不良の場合にすべてLAMAを併用するのではなく、ICS(吸入ステロイド)を増量するという手もあります。どのような患者でLAMAを併用すべき、あるいはICSを増量すべきかということも、このCAPTAINトライアルの後解析でわかってきたので、それについても紹介させていただきました。喘息はバリエーションが多いので、1人1人の患者さんと向き合って最適の治療を実践できるように日々考えながら苦闘しながら診療を行っています。