本を書くこと~出版の裏側

呼吸器専門医Aは今までいろいろと本を書いてきました。内容から言うと呼吸器の専門書で、読者対象としては研修医から呼吸器の専門医資格取得を目指すような若手医師、あるいは呼吸器診療も行うプライマリケアの医師向けの書籍が主体です。ずっと取り組んできた若手医師を対象とした教育の一環です。もちろん病院で診療を通じての教育の方が効果があることは間違いないですが、例えば初期研修医対象だと、呼吸器内科へローテーションで回ってきても期間は1ヶ月程度ですし、直接指導する後期研修医と一緒の時間が長く、初期研修医と向き合う時間は長くありません。

それは鴨川にあるK総合病院のような人気のある研修病院ほど顕著です。書籍執筆は言ってみれば不特定多数を対象とした教育です。一般の読者を対象とするものではないために、出版部数は限られていますが、読んでくれる読者のためにどれも力を入れて書きました。


これらの書籍は執筆の依頼を出版社から頂いて書きます。自分で企画を出版社へ持ち込んで出版に漕ぎ着けるといった性格のものではありません。執筆依頼を頂いてもすぐに執筆できるのではなく、どのような内容で書くのか項目立て、章立ての企画を提案し出版社の編集会議の俎上に乗せてゴーサインが出てから作業に取りかかります。


自分1人が書く単著や複数の執筆者による分担執筆があり、単行本や雑誌の特集企画などいろいろあります。単著はすべてを自分で書くため執筆ペースを調整できるというメリットがありますが、診療や教育、研究など他の仕事の合間に行うために時間を如何に確保するかが鍵になります。もちろん出版社から締め切りは提示されているので、締め切り間際になると売れっ子小説家のように担当者から催促が繰り返し来ます。また脱稿してもそれで完成ではなく、出版社側のチェックや疑義照会があり、さらに校正、索引の作成、装丁(カバーデザイン)の決定など多くの関門が待ち構えています。このために書籍として完成し上梓に至ったときには達成感もひとしおです。

呼吸器専門医Aが執筆した書籍(単著と企画編集したものを含むAの名前が表紙にあるもの)

一方で分担執筆の企画は大変な作業で、項目や章立てはもちろんのこと、その項目を誰に執筆してもらうのかも決める必要があり、執筆者リストを含めて出版社の編集会議にかけられます。この場合には誰に依頼するのかと言うことが鍵になります。もちろん各項目を得意とする人に依頼をするので、どこの施設のどの先生が何を得意としているのかを知っている必要があり、学会活動などでアンテナを張っておくことはもちろん、頼んで断られないように面識を持っておくことも必要です。近隣の先生だけでなく、日本中の先生と知り合いになっている必要があるために、こういった分担執筆の企画、割り振りができる人というのはどうしても限られます。そう書くとやはり狭い世界なのかも知れません。

依頼はきちんと締め切りを守っていただける先生に頼まなければならず、筆が進まない先生にお願いしてしまった場合には、こちらが出版社の担当者になった気分で催促を行わなければなりません。あまりに遅く、未着手の先生には執筆をお断りすることも考えなければならず、断るか待つか出版社との板挟みでかなりのストレスです。以前に私が企画編集した単行本では、いつまでも書いていただけない先生がいて、それでも問い合わせると「書きます」と繰り返し返事が来て、断るに断れないし、すでに締め切り通りに脱稿してくださった先生からは「一体いつになったら上梓されるんだ!」というお叱りを頂き、結局出版予定から1年以上ずれ込んで、多くの先生に平謝りに謝ったという思い出したくない黒歴史もあります。

本を書くと言うことは、内容が古いものにならないようにたくさん勉強し文献を読んで調べて、最新の知識を仕入理論武装しなければならないので、自分にとっても大変勉強になるために依頼されたら断らないことをポリシーにしてきました。これも自分にとってかけがえのない財産です。開業するということでしばらくは執筆業からは遠ざかることになりますが、今後はこのブログのように開業医の立場でまた執筆に携わって行けたらなあと考えています。