今年の日本感染症学会総会

第97回日本感染症学会総会・学術講演会(第71回日本化学療法学会学術集会との合同学会)がパシフィコ横浜で開催され、呼吸器専門医Aは司会を依頼され4月29日に行ってきました。

新型コロナのパンデミックが始まってから2021年2022年とweb開催でしたが、今年は現地とwebのハイブリッド開催でした。私はCOVID-19関連のセッションを担当しましたが、私のセッションではすべての発表が現地での発表でした。パンデミックが始まってから、感染症学会の演題もCOVID-19関連の演題が非常に多く、感染症を専門としている研究者のCOVID-19に対する関心の高さを物語っていました。
昨年もそうでしたが感染症学会の開催期間が日本呼吸器学会学術講演会と完全にかぶっていて、当初、感染症学会から4月30日のCOVID-19関連セッションの司会を頼まれましたが、その全く時間に東京で呼吸器学会のセッションの司会の先約が入っていたためお断りしたところ、前日の4月29日のCOVID-19のセッションの司会を再び頼まれお受けしました。私は患者様の診療を行う臨床医ですが、担当することになったセッションはCOVID-19の新しい検査技術の開発や、COVID-19の患者さんの体の中でどのようなことが起きているのかの細胞レベルでの研究、あるいは新規の抗ウイルス薬の開発といった基礎医学の研究発表のセッションでした。

朝一のセッションだったので参加者も少なく、参加者が少ないと言うことは質疑応答の時間にも参加者から質問が出ることが少なく、こういう場合には発表者には司会者が質問するのが通例になっていますから、専門外なのに質問をひねり出さねばならず、結構つらい司会でした。
基礎医学」という言葉は聞き慣れないかも知れませんが、臨床医学の基礎となる学問の総称で、解剖学,生理学,生化学,薬理学,病理学,微生物学,公衆衛生学などがそれに該当します。日本では通常,医学部の専門教育の最初の2年間に教えられています。九州大学医学部生命科学科の受験生向けサイトには以下のような説明がありますので引用します。
[基礎医学研究とは 「医学研究」というと、患者さんを直接治療するための臨床医学を想像する人が多いかも知れません。しかしながら、臨床医学はヒトのカラダの仕組みを理解する為の「基礎医学」に立脚しており、基礎医学の進歩は臨床医学の発展にも欠かせません。
基礎研究は、直接何かの役に立つとは限りませんが、長いスパンで考えれば、社会に対してより大きなインパクトを与える可能性があります。たとえば、最近日本人がノーベル賞を受賞したiPS細胞やオートファジー、がん免疫療法などはいずれも基礎医学研究の成果であり、これまで根本的治療法のなかった疾患の克服に大きく貢献すると期待されています。1960年代に発見されたクラゲの緑色蛍光タンパク質GFPは、当初は何の役にも立たなかったものの、時を経て、現代の基礎医学生命科学研究に無くてはならない技術になりました。(https://www.biomed.med.kyushu-u.ac.jp/juken/bms.html

今回の研究発表では、研究のための研究というよりも、例えば患者さんがCOVID-19に対してどの程度の免疫を持っているのかを調べる検査法や、重症化する患者さんの体内ではどのようなことが起きているのか(事件は会議室で起きてんじゃない!現場で起きてんだ!という青島刑事のことば思い出しますよね) を知ることで、どのようにすれば重症化を抑制できるのか、あるいは新型コロナウイルスSARS-CoV-2)が感染して、細胞に入り込む時にはウイルスとヒトの細胞膜が融合するのですが、その融合過程を抑える物質を見つけるためのスクリーニング方法の開発など、将来の診療に役立つような内容が多かったという印象を受けました。COVID-19は5月8日から5類感染症に位置づけが変わりますが、この変更は単に法律上の変更で、医学的な判断ではありません。行動制限がなくなり患者数は増えていますし、さらにゴールデンウィーク明けにはさらに増えそうですが、今後は患者発生状況も毎日の公表がなくなるためにうやむやになってしまうと危惧されます。こういった研究が世界中で進んで、いつかCOVID-19も本当にインフルエンザ並みに死なない、通年性の流行ではなく季節性流行を示す、恐れなくてもよい病気になってくれたらなと思います。5類移行後のコロナについては、いつか書こうと思います。
私が司会を担当した部屋を出ると「真菌の部屋」というのがあり、娘が気になるので見てきてくれと頼まれていたので入ってみました。

「カビだらけの部屋」かと予想していたら、案の定カビだらけで、訪れているのも私しかおらず、閑散としていました。たくさん顕微鏡が置かれていて、本物のカビを顕微鏡で見ることができます。

またカビについてポスターでも説明がされていましたが、免疫不全の患者さんの肺炎の原因となるため私たち呼吸器の医者にはおなじみの「ニューモシスチス・イロベチ(Pneumocystis jirovecci)」のポスターを見たら写真提供が以前に一緒に働いていたK総合病院のO先生だったので、この世界の狭さを感じずにはおられませんでした。
(2023年4月29日に記載しました)